体調の変化

犬の認知症はもっと早く気づける?最新研究「CANID」でわかったことと今後の展望

こんにちは、茨城県潮来市のペットサロンあしあとです。

「最近、名前を呼んでも反応が鈍い」「夜になると落ち着かない」。
年齢を重ねた愛犬にそんな変化が見られると、認知症の始まりなのか気になりますよね。

犬は言葉で「前より忘れっぽくなった」と伝えられません。家族が変化に気づく頃には、脳の働きが以前から少しずつ変わっていた可能性もあります。

そんな犬の変化を、もっと早く調べられないか。2026年10月12日、米国のアリゾナ大学などの研究チームが、新しい評価法「CANID(キャニッド)」についての論文を発表しました。

元ニュースはこちらです。
Hargrave SH, et al. Cognitive assessment for neuropsychological impairments in dogs (CANID): an efficient, repeatable, and sensitive evaluation for studies of cognitive aging. Animal Cognition. 2026年10月12日公開。原著論文

University of Arizona. Hide-and-seek for treats offers a new window into cognitive decline in dogs. 2026年10月22日。大学の研究発表

今回わかったのは、犬の年齢とともに変わる記憶力や判断力を、おやつを使った課題で調べられる可能性です。認知症を早期診断できるようになった、という発表ではありません。

研究で何が見つかり、今後の診療にどうつながるのか。2025年末に公表された犬の認知症に関する診断指針と合わせてご紹介します。

犬の「気づきにくい変化」を調べる新しい方法

年齢を重ねたゴールデンレトリバーの表情を穏やかに見つめる女性

これまで犬の認知症の研究では、夜鳴き、家の中で迷う、トイレの失敗が増えるといった行動について、家族に質問する方法がよく使われてきました。

この方法は普段の様子を知るのに役立ちます。しかし、まだ目立った困りごとがない段階では、家族も変化に気づきにくいという難しさがあります。

そこで今回の論文を発表した研究チームが開発したのが「CANID」です。

犬自身に簡単な課題へ取り組んでもらい、覚える力や、いつものやり方が通じないときに行動を変える力などを調べます。目指したのは、日常生活で大きな問題になる前の小さな変化も研究できる方法です。

従来の研究用の課題を短くし、1回およそ40分で評価できるようにしました。大学の研究発表によると、犬の様子や進み具合によっては、所要時間に幅があります。

おやつを使った3つの課題で、何がわかるの?

透明な筒の中と仕切られた箱にあるおやつを調べる犬の二つの場面

 
CANIDには、おやつを使う3つの課題があります。犬にとっては遊びに近い内容ですが、そのときの行動で認知に関する能力を記録し調査しています。

課題犬がすること調べたい働き
透明な筒目の前のおやつに直接向かわず、筒の開いた端から取るすぐに飛びつきたい気持ちを抑える力
隠したおやつ4つの仕切りのうち、おやつが隠された場所をしばらく覚えておく場所を覚える力
通り道の変更おやつまでの通路がふさがれたら、別の道を選ぶ新しい状況に合わせて行動を変える力

例えば、これまで通れた道がふさがれたとき、別の道を探せるでしょうか。CANIDは、こうした「考えて行動する力」を課題の成績から調べようとしています。

ただし、うまくできなかったからといって、認知症とは判断できません。 犬が緊張していたり、課題に慣れていなかったりすることも考えられるためです。家庭で同じ遊びを試しても、研究と同じ判定はできません。
 

239頭の犬を調べて、どんな結果が出たの?

さまざまな犬種や体格の犬が芝生に並ぶ様子

研究チームは239頭の犬にCANIDを実施しました。そのうち138頭を6か月後、114頭を12か月後に再び調べています。

結果として、年齢が高い犬ほど、3つの課題を合わせた成績が低くなる傾向が見られました。

8歳前後から、年齢による成績の違いが現れる可能性も示されています。ただし、同じ犬の認知機能が8歳から低下し始めると証明されたわけではありません。

同じ犬を数か月後に調べた場合も、成績には一定の共通性がありました。これは、CANIDを長く続ける研究に使えるかもしれない、という成果です。

一方、6か月後には、平均すると成績がわずかに良くなっていました。以前に経験した課題を覚えていて、取り組みやすくなった可能性があります。12か月後の全体の成績には、同じような改善は確認されませんでした。

つまり今回の研究は、犬が年を取るときに何が変わるかを調べるための「ものさし」を改良した研究です。239頭すべてに認知症があるかを診断した研究ではありません。
 

なお、この検査はすべての高齢犬で実施できたわけではありません。強い不安や体の不調がある犬などは参加が難しいこともあり、今回の結果をすべての犬にそのまま当てはめることはできません。
 

「7〜8歳で認知症が始まる」という意味ではありません

明るい住まいの中を自分の足で穏やかに歩く高齢のゴールデンレトリバー

ニュースで「7〜8歳から認知機能の低下を発見」と聞くと、愛犬がその年齢に近いだけで心配になるかもしれません。

けれど、年齢とともに記憶や判断の働きが変わることと、認知症という病気になることは同じではありません。

研究では、8歳前後から課題の成績に年齢との関係が見られました。一方、家族への質問票を使った過去の研究では、認知症の診断基準に当てはまる犬が増えるのは、おおむね12歳頃からと報告されています。
 

この年齢の違いは、「症状が出る何年も前に認知症を発見できた」と証明するものではありません。今回のCANIDで低い成績だった犬が、その後に認知症を発症するかどうかは、まだわかっていないからです。

犬種や体格、これまでの経験、体調によっても結果が異なる可能性があります。何歳になったら必ず衰える、という線を引ける段階ではありません。
 

2025〜2026年の新しい診断指針では、何が変わったの?

獣医師がタブレットの資料を使って家族と犬の健康について相談するイメージ

CANIDとは別に、2025年12月24日、犬の認知症の診断について国際的な専門家グループが新しい指針を公表しました。2026年4月刊行の獣医学誌に掲載されたものです。

犬の認知症は、専門的には「犬の認知機能不全症候群(CCDS)」と呼ばれます。

この指針は、認知症が疑われる犬を診るとき、普段の行動の変化に加え、痛みや視力、聴力の低下、別の病気が隠れていないかも調べることを重視しています。

例えば、呼びかけに気づかないのは耳が聞こえにくいためかもしれません。夜に歩き回るのは、関節の痛みや排泄の問題が関係している場合もあります。
 

また、軽い変化から日常生活に大きな支障が出る状態までを、3段階で考える方法も提案されました。症状の経過を家族と獣医師が共有しやすくするためです。

指針では、7歳頃から年1回、行動の変化を確認し、気になる変化があれば詳しい質問票で調べることを勧めています。

10歳以降は、特に症状がなくても半年ごとの質問票による確認を推奨しています。 これは海外の専門家グループによる提案であり、日本のすべての動物病院で同じ検査を受けなければならない、という決まりではありません。

CANIDが研究のために犬の「考える力」を直接調べるのに対し、この指針は、診察の場で認知症の可能性をどう考えるかを示しています。両方の研究が進むことで、将来は小さな変化をより正確に捉えられるようになるかもしれません。

今後は、認知症をもっと早く見つけられるようになる?

夕暮れの穏やかな景色の中で遠くを見つめる高齢のゴールデンレトリバー

期待されるのは、同じ犬を何年も調べ、認知機能がどのように変わっていくのかを確かめる研究です。

CANIDの成績と、家族が気づいた行動の変化、動物病院の診察結果を長い期間照らし合わせれば、通常の老化と認知症の始まりを見極める手掛かりが増える可能性があります。

もう一つは、食事や生活環境、治療によって認知機能が変わるかを調べる研究です。変化を測る方法が共通になれば、新しい取り組みの効果を比較しやすくなります。

さらに、新しい診断指針では、血液などから脳の変化を知る検査の開発も今後の課題に挙げられています。

ただし、いずれもこれからの研究です。CANIDによって認知症の予防法が見つかったわけでも、日本の一般的な動物病院で受けられる診断検査になったわけでもありません。

研究が進めば、犬の年齢だけを気にするのではなく、その子の変化に合った相談や支え方を考えやすくなることが期待されます。

まとめ いま愛犬の様子が気になっている方へ

休んでいる高齢犬のそばでメモを取りながら動物病院へ電話相談する女性

「もっと早く気づいてあげたかった」と思うことがあるかもしれません。

でも、今回の研究は、家族にも見えにくい変化をどう調べるかを探っている段階です。これまで気づかなかったことだけで、自分を責める必要はありません。

もし、夜鳴きや徘徊、トイレの失敗、家族への反応の変化が続いているなら、かかりつけの動物病院で相談してみてください。急に様子が変わった、意識がおかしい、発作が起きた、呼吸が苦しそうといった場合は、認知症だと決めつけず、すぐに動物病院へ連絡してください。

家庭での接し方や、夜に落ち着かないときの環境づくりについては、あしあとの既存記事「老犬の認知症で強まる欲求への対応ガイド」で詳しく紹介しています。

今回の研究から伝えられるのは、愛犬の小さな変化を科学的に知ろうとする取り組みが進んでいる、ということです。

その成果がすぐに診断や治療へ使えるわけではありません。それでも、いつか「年のせいかな」と迷っていた変化について、今よりも早く、確かな説明ができる日につながるかもしれません。

参考資料・出典

  1. Hargrave SH, et al. Cognitive assessment for neuropsychological impairments in dogs (CANID): an efficient, repeatable, and sensitive evaluation for studies of cognitive aging. Animal Cognition. 2026年10月12日公開。原著論文
  2. University of Arizona. Hide-and-seek for treats offers a new window into cognitive decline in dogs. 2026年10月22日。大学の研究発表
  3. Olby NJ, et al. The Canine Cognitive Dysfunction Syndrome Working Group guidelines for diagnosis and monitoring of canine cognitive dysfunction syndrome. Journal of the American Veterinary Medical Association. 2025年12月24日オンライン公開、2026年4月刊行。原著・概要
  4. American Animal Hospital Association. First ever guidelines published for diagnosis and monitoring of canine cognitive dysfunction. 2026年2月13日。診断指針の解説

-体調の変化